夏ばてを防ぐ食物 その1
日本生薬学会幹事
中国長春中医学院名誉教授
薬学博士
林 輝明
 夏ばてを辞書でひくと「夏、暑さのため体がぐったりと疲れること」とあります。 そして、暑さで体の新陳代謝が異常に高まり、体がほてって胃腸の働きが衰え、食欲 がなく、 疲労感がとれず、睡眠不足ぎみで、体重減少をきたすといった症状を呈します。今回はこれらの夏ばてを防ぎ、クーラー病を改善する食物について考えてみたいと思います。
- 清涼剤 -

 私達の体は、外温が高くなり過ぎて体温の調節が鈍ると、体の代謝機能が異常に亢進して、体がほてってだるくなります。いわゆる暑気当りです。これを治すには、いくら冷たい飲料水をとってみても胃腸を冷やすだけで、体の代謝機能が亢進しすぎたほてりを取り除くことはできません。
東洋医学には、この体の異常亢進を抑制し、正常な代謝機能の状態に引き戻してくれる働きをもつ清涼剤、清暑剤と呼ばれる薬物があります。これがなんとスイカ、キュウリ、冬瓜、苦瓜、ヘチマといったウリ科の果 実なのです。これらが、沖縄、台湾、南中国、印度などの暑い地方で好んで食べられるのは、単に味だけの問題ではなく、体が必要としているからなのです。


 昔の日本の夏の食卓には、必ずこれらのウリ類が漬物として並び、おやつには井戸水で冷やしたスイカが供せられたものでした。発育盛りの子供は、大人より新陳代謝が活発で、暑さで異常に体がほてりがちです。しかし、都会では、お母さんが面 倒だというので漬物を漬けなくなり、夏の暑い時期、清涼剤のウリ類が食卓を飾ることがなくなりました。その為、体をほてらせた子供達は、冷やしたコーラ類やジュース類をガブ飲みするようになりました。人間の舌は冷やせば冷やすほど甘みを感じなくなる性質をもちます。冷蔵庫に冷やした清涼飲料水1本、1缶 の中には、5個前後の角砂糖に相当する砂糖が含まれていることを忘れてはなりません。
私たちはもっとウリ類を夏場の食卓にのせ、子供達の健康を守ってやる必要があるのではないでしょうか。


 スイカは熱帯アフリカ原産の植物で、シルクロードを通って西から中国に来た瓜ということで西瓜の名がついたといわれます。中国を経て日本には戦国時代の末期に入り、江戸時代の初期に定着した果 物です。ミネラル、ことにカリウムを多量に含み、 尿の出をよくしてむくみをとり、含まれる果 糖とともに腎臓病の改善に役立ち、とり過ぎになり易い夏場の水分の排出を促進してくれる食効をもちます。また、清熱作用をもち、亢進しすぎた代謝機能を正常に戻し、余分なほてりをとって暑気当りを防いでくれます。そして、病気による高熱時にも解熱作用を発揮します。
キュウリはインドの北西部ヒマラヤの山麓が原産地で、西アジアでは三千年前から作られており、中国、朝鮮を経て、奈良時代に日本に伝わりました。清熱作用、利尿作用をもち、夏の食物としては好適です。欧州では、膀胱炎や腎炎のむくみとりの民間薬に用いられています。また消炎作用のあるサポニン成分が含まれるので、その汁は咽喉の痛みや火傷の痛みを和らげ、あせもの治療にも利用できます。江戸時代の旗本武士はキュウリを口にしなかったといわれていますが、キュウリの切り口が徳川家の葵の御紋に似ており、敬意を表して遠慮をしたのだとか。
 ナスはナス科の植物で、ウリの仲間ではありませんが、胃腸の熱をとり体を冷やす作用をもちますので、夏場の食物といえましょう。水分を94%近く含み、低カロリーの食物ですが、ヘスペリジン、ルチンといった毛細血管を強化する成分があり、高血圧の人にとっても好ましい食物なのです。インドが原産地で、奈良時代に中国から渡来しました。「秋ナスは嫁に食わすな」の俗諺は、姑の嫁いびりと考えられていますが、実際は涼しくなった秋以降に多量 食べると、婦人の腹部を冷やし流産の恐れのあることから、嫁の体を心配しての忠告というのが真実のようです。

 
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